ところで「JT」は大丈夫なんだろうか?

f:id:yanakaan:20170906133743j:plain

「今日も元気だ たばこが うまい!」

JT(日本たばこ産業株式会社)が「専売公社」だった昭和時代の名コピーである。大工さんだろうか、出稼ぎ労働者だろうか(芸能人でも学校の先生でもなさそう)。鉢巻をした「ニッポンのお父さん」が、たばこを片耳に挟んで(両耳だと少しヘンな感じになる)、未来の方向を明るく見据えている=写真=。

昔はこのように、たばこがうまい(と感じられる)ことが健康のバロメーターであったから、売る方も買う方も堂々と胸を張っていた。今はどうだろう。

もう20年近く前だと思うが、テレビドラマの1シーンにこんなのがあった(確か原作は筒井康隆)。ある男が、裏通りの〝たばこ密売所〟にやって来る。周りに人がいないのを十分に確認してから、宝くじ売り場みたいな小窓からサッと小銭を差し出し、声を押し殺して早口で「ハイライトを1個!」

筒井流のSFは、もうすぐ現実になりそうな趨勢だ。新幹線駅や空港にあるガラス張りの狭い狭い喫煙所。中にいる人に注がれる蔑みと憐れみの入り混じった視線・・・。

それにつけても心配なのが、4万人とも5万人とも言われるJT社員の行く末である。

「味には自信があります。皆さんどうぞ!」などと自社製品を表立っては勧められない苦境に、彼らは立たされている。こんな企業が、ほかにあるだろうか。

「喫煙は、あなたにとって肺がんの原因の一つとなります」。体への害や、マナーを守ること以外に宣伝する手段がない。これは相当、つらいことではないだろうか。イケナイものを作って売っているとなれば、社員の家族も肩身が狭いだろう。

ワシ自身の吸える場所もどんどん少なくなってきたことはさておき、JT関係者の無念と屈託を思いやると、治五郎は居たたまれない気持ちになるのである。