文豪と変態の境目

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アンソロジー(詞華集)というものがある。いろんな作家のものの寄せ集めだから全部に期待して読むわけではないのだが、中には「へえ、あの人がこんな作品を書いてたかねえ」と蒙を啓かれることがある。そこから、あまり読んだことのない作家に関心が湧いてくるようなことも、若い頃にはよくあった。

「文豪短編傑作選  BUNGO」(角川文庫)という本を、さっき読み終えた。文豪の短編だという以外に、どういう基準で選ばれたものなんだか、治五郎などには編集部の意図がよく分からない構成になっている。

中高生でも知っている森鷗外の「高瀬舟」や宮沢賢治注文の多い料理店」を今さら載せることもないだろうと思うんだが、ワシも不勉強なので岡本かの子坂口安吾永井荷風らの短編では初めて読む作品が幾つかあった。(読んだかもしれないがとっくに忘れた、というのが大半か)

困惑させられたのが、谷崎潤一郎=写真左=の「富美子の足」。柳亭種彦作、歌川国貞画の草双紙『偐紫田舎源氏』=写真右=の挿絵に触発されたらしいのだが、これは要するに「足フェチ」の実相を描いている。ワッ、いやらしいなァという世界だ。

大谷崎〟がズルいのは、それが自分の病的な性癖であることは伏せて、無名の一書生が尊敬する作家に送ってきた手紙という形を取っていることだ。確かに表現は抜群に上手だ。が、文章がこれほど巧みでなかったら、ただの変態との区別は難しい。

100年前に、よくこんな小説が出版されたもんだと意外な気もする。是が非でも読んでみたいと思う向きは、親や配偶者に知られないように探してみて下さい。