治五郎親方の大相撲初場所総評

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「そのニコラスとかいう刑事は、優秀な捜査員なのか」

「いや、警察官じゃありませんよ。ニコラス・ケイジ=写真=という、アメリカの映画俳優です」

「なんで今、日本で話題になってるんだ」

「大相撲の初場所で優勝したんです」

「そうか・・・えっ?」

この二人は、どちらも大きな勘違いをしている。顔つきが似ていることから「角界ニコラス・ケイジ」の異名を取っている前頭3枚目の栃ノ心(春日野部屋ジョージア出身)が初優勝を遂げたのである。

平幕の幕内優勝は旭天鵬以来、6年ぶり。たまには、こういうこともあっていい。旭天鵬が優勝して間もない頃、ワシは友綱部屋を訪ねて話を聞いたことがあるが、何百枚もの色紙に手形を押してサインするのに大忙しだった。

旭天鵬は、外国出身とは思えない流暢な日本語で「外を歩けば、誰彼から声を掛けられる。優勝するというのは、こういうことなのかと実感しました」と言っていた。栃ノ心も、今後1年ぐらいは外出するたびに「ニコラ~ス!」と(ニコラスではないんだが)呼び止められるに違いない。

さて今場所の内容だが、ひとことで言うと「惨憺たるもの」だった。日馬富士が引退して残った3横綱のうち、白鵬稀勢の里がはやばやと休場。鶴竜はと言えば、ばかに好調だと思われた10連勝の後は、無残な終盤を迎えた。

ニコラス(違うってば)を除けば、ワシが早くも「咲勝(しょうしょう)時代」を予言した小結の阿武咲・貴景勝が共にダメ、関脇の御嶽海は辛うじて勝ち越したが、北勝富士も負け越した。救いは、新入幕の竜電と阿炎が10勝を挙げて敢闘賞を取ったことと、もと「怪物」逸ノ城の復調ぐらいだ。

将来の横綱を期待された照ノ富士などはもう「過去の人」になりかかっているし、ロートル(失礼)の安美錦豪風も「寄る年波」には勝てず、十両はいいが幕下に落ちれば一陽来復は難しくなる。怪我のせいとは言え、ニコラス刑事(まだ言うか)のように幕下下位から出直して幕内最高優勝するなど、奇跡に近いのだ。

来月以降は政争にも似たドロドロの理事選、理事長選が待っている。まだ八角(いや、発覚)していない不祥事も幾つかくすぶっているようだし、文春その他がハイエナの如く嗅ぎ回っている。発覚いや八角理事長も生きた心地がしないだろう。

ともあれ、2018年の角界は多難な幕開きとなった。ワシにはどうにも出来んが。

 

こぼれ話:栃ノ心の締め込み(回し)は、師匠が現役時代に使っていたもの。尊敬のあまりなのか、いわゆるゲン担ぎなのか、よく分からない。文字通り「人のふんどしですもうをとる〔=他人のものをうまく借用したり そのやる事に便乗したりして 自分の利益を図る〕」を地で行く例だが、この場合は〔 〕の中ほどの悪い意味はない。