エレベーターの怪事件

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治五郎が1階に居住している賃貸マンション(と言ってもアパートに毛の生えたような1DK)は6階建てで、ワシ以外の入居者は全戸が単身者らしい。

ドアを開ければエレベーターホール=写真=だ。(ホールというほどの面積はない)

草木も眠る丑三つ時・・・ドアを開けたら、上階からエレベーターが下りてくる途中だった。こんな時間である。ワシの他にも誰かアル中ハイマー(©山田風太郎)がいるのだろうか? 好奇心に勝てず、いったん部屋に戻り一呼吸おいてドアを開けた。

エレベーターは今、1階に止まったところだ。2秒、3秒、5秒・・・10秒経っても、誰も出てこない。変ではないか。中で何か起きているのではないか。上階に用はないけれども「▲」ボタンを押してエレベーターのドアを開ける。

もぬけの殻であった。

【蛻の殻】〔人が逃げたあとなどの様子〕

さあ、こうなれば名探偵ジゴローの出番だろう。「この密室から、犯人は一体どのような方法でどこへ消えたのか?」(そもそも何の犯人だ)

さすがは名探偵だけあって、謎は間もなく解けた。彼が語るには・・・。

「それはねえ、ワトソン君。目的階に着いた住人が、エレベーターを出た直後に腕を伸ばして1階行きのボタンを押したのだよ。訪問先で靴の向きを変える人のように律儀な性格なのか、ストーカー対策なのかは分からないがね」

なあ~にが「怪事件」だ。