車道の真ん中で猫をサン付けで呼ぶ老人

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何を隠そう、それはワシのことです。

夕方4時半ごろ、家の前の車道を手前から向こうへ走って渡る青年がいた。手に小さな段ボール箱を抱えている。見ていると、車道の真ん中で何かを落とした。

貴重品だったら困るだろうと思い、うっかり飛び出さないように気をつけながら、車道に出て落とし物を拾った。汗拭き用のタオルである。車道のこっち側にヤマト運輸の配達車が止めてあって、クロネコヤマトの宅急便であることが知れた。

ワシは思わず叫んでいた。「黒猫さーん!」

しかし青年はもう向かいのマンションに姿を消している。(宅配業界は昨今、深刻な人手不足に見舞われているから、彼らは常に走って仕事をしなければならないのだ)

車道の真ん中に立って黒猫をサン付けで呼ぶ老人は、かなり目立ったらしい。歩道上で帰宅途中の女子高生が何人か、足を止めて(どこに黒猫=写真=がいるの?)と不思議そうに見ている。

しかし、こういう場合に名も知らぬ青年を何と呼べばいいのだ。「大和さん」じゃ旧知の仲みたいだし、「お兄さん」じゃ新宿2丁目あたりの客引きみたいだ。

仕方がないので、いったん車道を渡り切ってマンション前で「黒猫さん」を待つ。2~3分で出てきたので、今度は冷静に話しかけた。「黒猫さん、これ・・・」「あ、落としましたか? わざわざ済みません」

まったく「わざわざ」である。これを「年寄りの冷や水」と言う。(言わないか)