「予定稿」は出来ていたかな?

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<「YOUNG MAN」(Y.M.C.A)」「傷だらけのローラ」などのヒット曲で知られる歌手の西城秀樹(さいじょう・ひでき、本名・木本樹雄)さんが16日、急性心不全で死去した。63歳だった。>©読売新聞

どうせ「早すぎる!」と言うんでしょう。「人生百年の時代なのに!」と。治五郎は、そうは思いません。

歌と踊りに最大の生きがいを感じる人間が10代から数十年の間に、普通の人の何千年分も歌って踊って、コロリと逝けたら最高じゃないでしょうか。(人前での歌、まして踊りなど身の毛がよだつと感じるような男は、この限りにあらず)

ワシは新聞社を定年退職してから5年たったが、テレビが著名人の訃報をテロップで流すと反射的に時計を見る癖が未だに抜けない。

まず「原稿が(夕刊または朝刊の)締め切りに間に合うか」。間に合いそうな場合、亡くなった著名人が80代や90以上であれば我が方の準備は整っているはずだが、困るのは50代、60代(またはもっと若年)で急死するケース。「予定稿」がないのだ。

予定稿という言葉に、一般人は馴染みがないかもしれない。死なれてから慌てなくていいように、新聞社があらかじめ用意しておく死亡記事のことだ。実際の死亡時刻にもよるが予定稿さえあれば、最晩年の様子や関係者の談話を盛り込む余裕が生じる。

ある高齢の著名人(文学関係)と飲んだ時に「ねえ、僕の予定稿って出来てるの? 見せてくれたら添削するよ」と言われたことがあって「いや、それは」と断ったが、いま思えば、彼の希望に沿いたかった気がしないでもない。

ワシは西城秀樹とは同世代だが(2年ほどサバを読んでる)、好きな歌のジャンルが違うので何の思い入れもなかった。ハウス・バーモントカレーのCMソング(〽 リンゴとハチミツ とろ~り とけてる)が耳に残っている程度だ。=写真は、彼の還暦を記念した特製品=

「ヒデキの予定稿は出来ているか?」と一瞬、心配してしまったが、彼は2度の脳梗塞を乗り越えた経験があるそうで(ファンじゃないから、聞いたことはあっても忘れていた)、マスコミの右往左往は取り越し苦労だったようだ。

哀悼の意を表明しつつ、ヒデキには「おいおい、よかったなあ」と言いたい。