命なりけり水元公園

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水曜日の昼下がり、葛飾区東金町に住む主婦のP子さん(36)が玄関先の掃除に熱中していると、知らない男から声を掛けられた。

「ちょっと、すんません」

「えっ? はい何でしょうか(変な人でなきゃいいが)」

水元公園へ行く道を教えてくれませんか」

男は70近い感じで、半白髪の頭に野球帽をかぶっている。頑健な体つきには見えず、足元が少し危なっかしいという印象を受ける(大丈夫だろうか)」

見ると、後ろにアラフォー(40前後)らしい女が二人いて「いずれがアヤメかカキツバタ」というほどの美人ではないが、姉妹だろうという見当はつく。男は父親なのだろうか。それにしては全然、似ていない。

「この道の先に設計事務所があるので、そこを左に曲がってまっすぐ行って下さい」

「ああ、どうも。ありがとうございます」

親切なP子さんはホッとした。が、心配は残るので「お気をつけて」と付け加えた。

はい、この男が治五郎です。金町駅から歩いて10分、かなり疲れとるとですよ。

水元公園の花菖蒲=写真=は見頃で、実に素晴らしかった。「メタセコイヤの森」でビニールシートを広げて寝転び、買っておいた「柿の葉寿司」やソフトクリームを食っていたら、西行法師の名歌を思い出した。

<年たけてまた越ゆべしと思ひきや命なりけり小夜の中山>

「若い頃に越えた峠を、69歳にもなって再び通ってしまった。長生きというのは、してみるもんだなあ」という感慨である。

ワシの場合、西行の享年にはまだ遠いが「命なりけり」の実感はある。水元公園は何十歳になって行っても、いいと思うよ!