上には上がある〝オノマトペ〟③

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太宰治津軽」の冒頭に、有名な「津軽の雪」が載っている。

こな雪 つぶ雪 わた雪 みず雪 かた雪 ざらめ雪 こおり雪 (東奥年鑑より)

東奥(とうおう)は、東奥日報という地元の最有力紙(通称トーニッポ)。青森県内では今も読売や朝日の追随を許さぬシェアを保っている。まあ、それはどうでもいい。

 トーニッポの年鑑から太宰が引用した〝七つの雪〟は、積もった雪の形状を表したものであって、現に降っている雪の姿を分類したものではない、というのが通説らしい。

雪の降り方(音)を表現したオノマトペはあるだろうか? 〽雪やこんこのコンコとか、シンシン(深々)ぐらいしか思い浮かばないのが普通ではないだろうか。

<太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ>の三好達治でさえ「う~ん」と考え込むのではないだろうか。

しかし、降る雪の音を表現する言葉が本当にないかというと、あるんだよ、これが。

ものすごい勢いで雪が降り続き、災害になりかねないという恐怖感を人が抱くような場合、津軽人は「ノッツノツ」または「ノンノ」という表現を用いる。

「ほろ~、ノッツノツど降ってきたや」「ノンノど降ってらきゃ」

 この怖さは、現地で経験した者でなければピンと来ないだろう。しかし治五郎が最も驚き、かつ強い感動を覚えたのは、次のオノマトペ津軽限定版)である。

<プファラッ(と)>

例えば真冬の晴れた朝、外に出て深呼吸なんかしている時に、ひとひらの雪が舞い降りてきて、鼻の頭(またはホッペタ)に乗っかる。次の瞬間には溶けて消える、はかない雪片である。この状況を「雪(ゆぎ)がプファラッと鼻さ乗ったおん」と言う。

「プファラッと」にはその雪片の軽さはもちろん、鼻先が感じた冷たさと心が感じた温かさ、はかなさ、いとおしさなどが見事に表現されていると思う。

いやあ人間、どんなに表現力があっても土地土地のオノマトペには敵いませんて。