起承転結の起

f:id:yanakaan:20190904160654j:plain

<見えるものは満天の星だけ。人家などないモンゴルの大草原を、4台の四輪駆動車に分乗して目的地へ向かった。4月でも零下20度。泥濘にはまって時間を消費したため、ガソリンが切れれば命にかかわる。1991年、38歳。生まれて初めて「死」を覚悟した。

 深夜、村で唯一の宿泊施設にたどり着いたが「満室」と言われて皆、へたり込んだ。すると先客一行が一室を譲るという。高名な映画監督が率いるロケ隊に翌朝、口々に礼を言うと不思議そうな顔をされた。「当たり前のことをしただけなのに」

 この国では「困った時はお互いさま」「情けは人のためならず」という、日本ではあまり聞かれなくなった言葉が完全に生きている。驚きだった。

 見知らぬ外国人を精いっぱい歓待する遊牧民。幼時から親の仕事を手伝い、アメ玉一個をもらう時も両手で受け取る子供たちーー。社会主義時代の最末期に取材で3か月を過ごした「草原の国」は帰国後、記者がすべき仕事を星明りのように照らし出した。(顕)>(2007年3月26日付)

      *  *  *  *  *

「その話なら前にも読んだ」というブログ読者もいるだろう。こらえてつかあさい。

後輩記者の原稿をチェックする毎日でストレスがたまる文化部デスクたちが、毎週交代で書きたいことを勝手に書く「つれづれ」という小コーナーが、文化面に設けられた時期がある。(首謀者は治五郎)
 「起承転結」は30代後半から50代前半にかけて、働き盛りだったワシの実感が(いま思うと)詰まっているので、脳と手のリハビリを兼ねて再録しようと思う。