初の入院・手術と「人間の尊厳」その他(2)

f:id:yanakaan:20191229224519j:plain

たとえば「しびん」というもの=写真=を、治五郎は使った経験がない。

しびん【溲瓶・尿瓶】〔「しゅびん」の変化〕動けない病人や高齢者などが、▵部屋(床)の中で 小便をするのに使う瓶。

手術が近づくと「終わってから6時間以上は、寝返りも打ってはいけません。身動き厳禁」などと雰囲気が物々しくなってきた。しびんの出番なのかと思ったら、今はアレに何かを装着してもらえば、おしっこは何回でも出し放題。ナニの形状や大小に関係なく、尿は一滴も外に漏らすことなく、管を通ってビニール袋に蓄えられる。

3時間を超す手術中に「外れてるんじゃないか」と心配になり、未成年のようにも見える看護師に合図して確かめてもらうと「大丈夫、外れてません。万が一、外れても下が濡れないようになってますから」とのこと。

よく分からないが、こっちは身動き厳禁なので、されるがままだ。白昼、恥ずかしいもヘッタクレもないのである。見栄とか自尊心とか「人間の尊厳」といったものが一瞬にして剥ぎ取られ、患者は生き恥をさらす以外になすすべはない。

老人が弱くて醜い己の肉体を人目にさらし、働いてくれる人の世話に身を委ねる。う~む、1年でも長く生きるというのは、つまりこういうことなのだな。分かっちゃいたが、改めて身に染みた。そういう意味でも、初の入院・手術は貴重な体験だった。

しかし、まだ話は尽きない。残尿感があるとでも言おうか。(続きは、また)

ざんにょう【残尿】排尿し切れずに膀胱に残っている(と感じられる)尿。「―感」