試練と風貌と歳月

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40年前、北朝鮮に拉致された横田めぐみさんの母・早紀恵さん(82)である。

治五郎は、この人の風貌に弱い。顔や表情だけでなく、声や話し方にも弱い。「とても敵わない人物だ」と感じないわけにいかない。もし拉致事件がなかったら、どこにでもいる「普通のあばあちゃん」になっていたのだろうが今となっては、ただ者ではない。

ワシだって、つらい思いや悲しい出来事を全く経験しないで生きてきたわけではない。が、レベルが違うのだ。この人と向き合えば(向き合ったことはないが)、我が身を省みて「安閑と暮らしてきて、すみませんでした!」と心から謝りたくなる。

【安閑】▵人が忙しそうにしている(大事件が起こった)のに、構わずのんきな生活態度を続ける様子。

彼女の風貌を形成したものは、厳しく長すぎた歳月だろう。新聞記者の経験で言うと、再審で無罪が確定した冤罪被害者などに似た空気を感じることがある。人間社会の地獄を見てきて、しかし微かな希望を捨てきらずに生きてきた人に共通する雰囲気。

夫の滋さんはまた別な雰囲気を持つ人だが、彼は大丈夫なんだろうか? めぐみさんが急に帰ってきたりしたら、娘と認知できるのか? やや心配になる昨今だ。

あゝ、それなのに! 北朝鮮は「拉致問題は解決済み」と言い張るし、日本政府は親分たるアメリカのトランプ頼みだ。朝鮮半島は、南北を問わず「大日本帝国」がやったことに対する「恨(ハン)」の思想が消えない。日本人は「水に流す」のが好きで、ドイツみたいに「過去の清算」を徹底することができない民族なのだろう。

半島の人々は「たかが70年たったぐらいで過去の罪は消えない。1923年の関東大震災で多くの朝鮮人が虐殺されてから、まだ95年だぞ!」「豊臣秀吉が虎退治と称して朝鮮を侵略したのは・・・」と言うだろう。「うちの遠祖は白村江の戦いの時・・・」と言い出す人が現れないとも限らない。

「歳月」とは何ぞや。