スポーツ選手のコメント今昔
何を聞いても「オッス(ウッス)」としか答えられない。それが半世紀前のスポーツ選手というもの(今はアスリートと呼ばれている)だった。
例えば、高校野球の地方大会。攻守とも絶好調で、あと1、2勝すれば甲子園へ行けるというチームの選手に、新米記者がインタビューする。「今の試合の勝因は?」「オッス」「最後の球はフォークだった?」「ウッス」
こいつはバカか? と思ってしまったものだが、そのバカがプロ野球選手になって相当な活躍を見せ、引退後は監督も務め、今は立派な解説者。(誰とは言わない)
相撲の場合は、もっとひどい。オッスだけでは記事にならないから、何か言わせようとする。「左(下手)を取ろうとしたが、うまくいかなかった?」「オッス」「それで気持ちを変えて右から突いた?」「ウッス」
紙面では、こうなる。「左の下手を取ろうとしたんですが、うまくいかなかったので右の突き押しに出たら、それがうまくいきました」。この力士も、今では日本相撲協会の幹部に名を連ねている(誰とは言わない)。取材した先輩記者の苦労が偲ばれる。
現在ではどうか。取り組み前の支度部屋で「今日の作戦ですか? まず左下手を取りたい。それがダメなら、右の突き押しでしょうか」「えっ、得意なカラオケですか? いくつもあるけど、評判がいいのは『昔の名前で出ています』かな」
時代は移ったのだ。しゃべれないスポーツ選手はダメ。テニスの松岡修造=写真=あたりが境目だったろうか。現役を終えたら、どこで何をしているやら音沙汰なしという往年のスター選手が、最近は無性に懐かしい。