「ケンボー先生と山田先生」

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ケンボー先生は見坊豪紀(けんぼう・ひでとし)(1914~1992)、山田先生は山田忠雄(1916~1996)。二人の辞書編纂者について、治五郎はその存命中から(面識などはないが)強い関心を持って見守ってきた。

見坊先生は「三省堂国語辞典」(略称「三国」)、山田先生は「新明解国語辞典」(略称「新明解」。ワシなどが「新解さん」と呼んでいるのは、赤瀬川原平のベストセラー「新解さんの謎」に便乗している)の編纂者である。

同じ出版社から2種類の国語辞書が出され、それぞれが個性的な内容で熱心なファンを擁している。新解さんのオールドファンと言っていいワシは、赤瀬川の本が出た時は快哉を叫んだものだ。

2013年4月にNHKのBSプレミアムが「ケンボー先生と山田先生~辞書に人生を捧げた二人の男~」という番組=写真=を放送したところ、これが大好評。取材した佐々木健一ディレクターが翌年、「辞書になった男 ケンボー先生と山田先生」と題して書籍化(文芸春秋)すると、これがまた大きな反響を呼んで昨年、早くも文庫になった。

二人の先生は、どちらも言葉のマニアというかオタクというかフェチというか変態というか、とにかく常軌を逸している感がある。見坊先生は一人で145万件の用例を集めた怪人だし、新解先生は(ご承知の通り)言葉の意味を表からも裏からも徹底的に追究した(というか撫で回し、ほじくり返し、しゃぶり尽くした)。

東大国文科の秀才同士だった両者は、1972年1月9日を境に袂を分かち「自分だけの」辞書づくりに邁進する。その日に何があったのか? 多くの関係者に取材した佐々木ディレクターの労作は、その真相に肉薄して下手な推理小説より面白い。

二人の関係は、新解さんが定義した「世の中」の説明にも滲み出ていると言う。

【世の中】同時代に属する広域を、複雑な人間模様が織り成すものととらえた語。愛し合う人と憎み合う人、成功者と失意・不遇の人とが構造上同居し、常に矛盾に満ちながら、一方には持ちつ持たれつの関係にある世間。

クーッ、やっぱりそこまで言わないと気が済まないのですね、新解さん

テレビ番組の方をワシは見逃したが最近、ユーチューブで見ることができた。それぞれの辞書のファンを自認する向きは、削除されないうちに急いで見ることをお勧めする。