小林秀雄と田河水泡

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次の文章の誤りを正しなさい。(高校受験レベル)

<妻が愛読し始めたもんだから影響を受け、かねて「批評の神様」呼ばわりされてきた小林秀雄(1902~83)=写真=を読み直している。これが滅法、面白いんだ。>

もちろん、誤りは「―呼ばわり」にある。

【呼ばわり】(造語)〔「大声で呼ぶ」意の動詞「呼ばわる」の連用形の名詞用法〕いかにもそうであるかのように ずけずけ言うこと。〔名誉な事については言わない〕「泥棒ー」

連用形の名詞用法というのはよく分からないが、とにかく名誉な事については言わないのである。(辞書で肝心なのは、こういう〝お節介〟ではないだろうか)

治五郎は若い頃、小林秀雄をよく読んだとは言えない。大学入試に出る出ると言われるもんだから反発を感じ、敬して遠ざけてきた節もある。 高校時代などは読めない漢字も時々あって、(もっと読みやすく書けやい!)とイライラしたものだ。

それが、今はどうだろう。スラスラ読めるのである。意味が分からないという個所は、ほとんどない。年は取ってみるものだ。(それで何かいいことがあったかというと、何もない。ワシも少しは利口になってきた、という自己満足だけである)

んーっと、それがどうしたんだっけ。あ、田河水泡(1899~1989)だ。この漫画家は戦時中、「のらくろ」シリーズ=右絵=で軍国少年たちを夢中にしたものだ。(むろんワシは世代がズレるから「一応、知っている」という域を出ない)

 この田河水泡は、小林秀雄からすると妹の夫だから、年上ながら「義弟」に当たる。小林の随筆に「漫画」という小品があって<私は、弟の仕事に、大した関心も持っていなかった>と言うから(ははあ、身内の自慢を始める気だな)と思ったのだが、違った。

ほんの「小上がり」だと思って入った座敷が、奥が見えないほどの大広間だったとでも言おうか。

【小上がり】〔すし屋・小料理屋などで〕いす席とは別に、座って飲食出来るようにした畳敷きの客席。

 わずか数ページの「漫画」には、分厚い漫画論にも匹敵する内容が盛られていると感じた。有名なエッセー集「考えるヒント」(文春文庫)の1冊目に収められているから、御用とお急ぎでない人は本屋で立ち読みしてみて下さい。