いかりや長介と津軽弁の出合い

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 コメディアンとしてよりも役者として、治五郎が極めて高く評価していた人物がいる。いかりや長介(1931~2004)=写真=だ。日本の男優の中で、五指に入るとまでは言わないが17位ぐらいには入る。(微妙なところとはいえ立派なもんだ)

ザ・ドリフターズのリーダーだった時代から(この男は、シリアスな役をやらせたら面白いぞ)と、いっぱしの演出家みたいな目で見ていたんだが、果たしてそうなった。どこまでも人のいいオヤジ、人情味のあるベテラン刑事など、役柄の幅をどんどん広げていった。悪役をやらせようものなら、評価は17位から4位に跳ね上がる。

いかりや長介(以下「長さん」)は東京出身で津軽とは縁もゆかりもないが、以前テレビの〝旅番組〟で見たワンシーンが懐かしいので、脚本風に記しておこう。

青森駅前にあったリンゴ市場を、冷やかしながら長さんが歩いている。ある出店の前で足を止め、試食する。売っている婆さんが、つぶやいた。「スケベ」

長さんは戸惑った。(今の言葉は俺に向けて言ったのか?)

長 (自分の肩越しにサッと後方を確認するが、他に人はいない)「お・・・俺が?」

婆  「んだ。スケベ」

長 (一瞬、怪訝な表情を浮かべ、それからムッとした顔つきになり少し考える。やがて観念したように気弱な笑みが浮かんで不承不承)「う・・・うん、そりゃまあ」

( )内の表情の変化が2~3秒の間に演じられる。(演技なのかどうかは不明)

 

婆さんは、津軽弁で「酸っぱいでしょう?」と聞いたのである。津軽では往々にして語尾を上げずに質問することがあるので、断定しているように聞こえる。長さんにとっては、それが悲劇の元であった。だめだこりゃ。