馬糞にまつわる清らかな思い出

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ウニの味と言えば断然、ムラサキウニやアカウニではなくバフンウニ=写真=に限る。この問題を少し掘り下げてみたい。(こら逃げるな)

モンゴルの草原で3か月ほど暮らした時、川で歯磨きしていたら何か草みたいなものが歯に挟まった。薬草というかハーブというか、なかなか乙な香りと味がする。

覚えつつあった単語を駆使して、隣で歯を磨いている遊牧民に「この草は何という物であるか」と聞いたら、相手は笑いながら「それは馬のフンである」と教えてくれた。

 あの国は乾燥していて、強い風が吹く。草原に散らばっている無数の馬糞はカラッカラに渇き、やがてコロコロコロコロと転がって川に入るのだ。そして溶ける。

 馬糞のことをモンゴル語でホモールという(発音は難しい)。牛糞のことはアルガルといって(これも難しい)、乾燥したものは貴重な燃料になるので、女や子供は草原のアルガルを拾い集めるのが大切な日課だ。味は知らないが、においはホモールよりアルガルの方が深みがある(とワシは感じた)。しかし、今はホモールの話である。

 なぜ馬糞の話になったかというと、それが治五郎の「原風景」だからだ。

 60年以上前の青森県東津軽郡平内町。冬は雪が積もるから、駅から自宅付近まで行くのにバスではなく馬そり(乗合)に乗せられた。4歳ごろのことだと思う。先頭の座席に座ると、目の前に大きなバケツ=馬尻が来る。

シッポが持ち上がったと思うと、馬がポトポトポトッと糞を落とした。それは豪快な景色であり、侮りがたい生命力はワシの幼心に深く刻まれたのだった。

ウニはバフンウニに限るというワシの固定観念は、この幼時体験と何か関係があるのか全くないのか? 今となっては、真相を知る人は世の中に一人も存在しない。