ノーヒットノーランと完全試合の違い(2)

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ちょうど40年前の春だったと記憶する。甲子園球場で、センバツ高校野球の一回戦(前橋高 ✖ 比叡山高)が行われた。

25歳になったばかりの治五郎は、前橋支局の下積み。ようやく野球のスコアブックをつけられるようになった頃で、甲子園に出場することになった進学校の前橋高(通称マエタカ)に、思い入れは特にない。

現地には支局の先輩記者が群馬県版用に派遣されたし、パブリック・ビューイングなどもない時代だから、地元で取材すべき〝場面〟は何もない。県庁前の喫茶店に入って、M新聞の記者(年上)とコーヒーフロートか何かを飲みながらテレビ観戦した。

マエタカの松本稔という投手=写真=はコントロールと度胸に定評があったが、他県から注目されるような存在ではない。ところが、この日はバカに調子が良かった。5~6回まで三者凡退が繰り返されたあたりで、少し心配になった。

ノーヒットノーランになるかも」

「それならまだしも、完全試合になったらどうする」

ノーヒットノーラン完全試合は、どう違うんですか?」

「なんだお前、そんなことも知らずに野球の取材をしてたのか」

(他社の先輩というのは、自社内では聞けないことを教えてくれるから、ありがたい)

不安は的中して、松本投手は「春・夏を通じて全国初の完全試合」を達成した。一面、運動面、社会面、そして県版と、馬に食わせるほどの原稿量が必要になる。

支局に戻ると、デスクが「知事の談話は取れたか?」「松本投手の小中時代のエピソードはないのか」と殺気立っている。

あの日の大騒ぎは、忘れようとて・・・覚えきれない。完全試合とはどういうものかを、ワシが65歳の今も忘れずにいるのは、そういう背景があってのことです。