ガムと名刺と記憶力

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〝お口の恋人〟ロッテが、こんなガム=写真=の宣伝に力を入れている。

「記憶力を維持する」というのが商品名なのだろうか? 新聞の1面に載った広告には「ガムで登場!」「歯につきにくいガム」「中高年向け」「ほろにがミント」などの惹句が躍っているが、肝心の商品名が判然としない。

「記憶力」に ※ が付いていて、小さな字で「言葉や図形などを覚え、思い出す能力を指す」と注がある。新明解国語辞典で「記憶」を引くと「過去に経験した事の印象や一度意識に止めた事の内容が脳裏にとどめられ、随時再現出来る状態にある(ようにする)こと。また、その内容」とあるが、ガムの広告にそこまで要求するのは酷か。

新聞広告では、典型的な中年サラリーマンのイラストにセリフが添えてある。いわく「以前、名刺交換した人に、また名刺を差し出してしまった」。このコピーを考えた人は、失礼ながら20代の「若造」ではないかと思う。

チッチッチ、甘いよロッテさん。記憶力が衰えるというのは、そんな生易しいものではないのです。同じ相手に名刺を2度渡してしまったような経験なら、ワシには30代の頃から何十回もある(自慢して言ってるわけじゃないんだよ)。

50を過ぎるとどういう事態に見舞われるかというと、さっき別人からもらった名刺を自分の名刺と間違えて初対面の相手に差し出し「おや? 記者さんかと思ったら映画会社の専務さんでしたか」と驚かれたりすることがある。

毎日会っている会社の上司や後輩とエレベーターで一緒になり、世間話を交わしながら(え~っと、この人の名前は何だったっけ?)と苦悶したことも数えきれない。

ミントガムを噛むぐらいで予防できたらノーベル賞ものだ! と叫びたいけれども、あまり言うと営業妨害で訴えられかねないから、やめておこう。

今は名刺というものを持たない身になって正直、ちょっと不便を感じる場面もないではないが、バカボンのパパみたいに「♪ これでいいのだ~」と、世俗を突き抜けた解放感に浸れる。豊かな老後とは、こういう状態を言う。(おいホントか?)