「4・10事件」一周年企画②

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室生犀星「小景異情」の〝予習〟は済みましたか? では、始めましょう。

1年前の「4・10事件」には分かりやすい別名がある。「出ていけ事件」という。その日、4年間ほど同居していた(させてもらっていた)高齢の両親(当時、共に89歳)から突然、その言葉が発せられた。親の年のせいにする気はないし、息子(すなわちワシ)夫婦にも原因の一半はあるに違いない。

しかし、あまりに突然のことではあり、家を出てどうするという当ては全くない。寅さんじゃないが「それを言っちゃオシマイよ」だ。ちなみに「お兄ちゃん、どこへ行くつもり?」と気遣ってくれる妹(さくら)は現場にいなかった。

事の本質は、64歳(当時)にもなって親に「勘当」されたのである。

【勘当】〔法に照らしあわせて罪を定める意〕親・師・主などが目下の者の失敗や悪事をとがめ、その罰として今までの関係が全く無いものとして扱うこと。

どういう「失敗」や「悪事」を働いたのか今ひとつ釈然としないが、覆水盆に返らず。

とりあえず近所のスーパーに通って段ボール箱を集める。トイレットペーパーやティッシュ用の大箱ばかりで心許ないが、11個ほど集まったので衣類や書籍など最小限、必要な物を詰め込んだ。(自分の物ではない布団や食器を持ち出すわけにはいかない)

約1週間後、家を出た。新幹線代を節約して長距離バス(昼)で東京に向かう。ワシ単独だったら「今夜からは橋の下で寝るか」と覚悟するところだが、生活力というものは常に「♂<♀」。ワシにも土地鑑のある北区田端(動坂下付近)のウイークリーマンションを妻が予約してくれていた。

朝に弘前=写真は、近所の名刹「最勝院」=を発って、田端に着いたのは日没後。途中で北上中の「桜前線」と、すれ違った。仙台あたりが満開だった。

その時でありました、ワタクシが忽然として室生犀星の詩境を悟ったのは。

<ふるさとは遠きにありて思ふもの そして悲しくうたふもの よしやうらぶれて異土の乞食となるとても 帰るところにあるまじや>