今場所で優勝する力士の切ない未来
今から20年後のNHK大相撲中継。実況中継は新米のK・Yアナウンサー、解説役のゲストは杵柄(きねづか)親方である。
【杵】〔「ね」は、もと接辞〕▵穀物(蒸した米)などを臼に入れてつくための用具。
【杵柄】杵の柄(エ)。「昔取ったー〔=昔鍛えた腕に(今も)自信のあること〕」
K・Y「親方は、え~っと幕内最高優勝を遂げた経験をお持ちなんですね」
杵柄「・・・はい、まあ」
K・Y「いつでしたっけ」
杵柄「平成30年の名古屋場所」
K・Y「あ~、あの有名な!」
杵柄(ムッ)
K・Y「横綱が3人いるうち稀勢の里が最初から休場、序盤で白鵬も鶴竜も休場して新大関の栃ノ心まで休場。残る2大関は、豪栄道も高安もカド番。私は小学生でしたが、クラスの皆は〝本命不在の二軍場所〟と悪口を言ってました。いや、私は言ってませんよ。ああ、あの平成最後の名古屋場所で優勝なさったんでしたか、杵柄親方は」
杵柄「・・・おい、ちょっと表へ出て涼んでこようか」
K・Y「いや、放送中ですし外は暑すぎますから」
だれが優勝することになるか、今はまだ誰にも分からない。が、優勝した力士(のちの杵柄親方)が20年後、つらい思いを強いられはしないか。治五郎は、そこまで忖度してしまう性格なのだった。